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地域の記憶を紡ぐ―文化財を後世に繋ぐための再生事業

築約300年の県指定文化財「大庄屋 三木家住宅」を改修したホテル「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」のメインエントランス

 

日本初の文化財ホテルのオープン

 

「三木家のおばあちゃんの家でよく遊ばせてもらったんや」。

古い家を再生して、ご近所の方が見に来られると、それぞれに建物にまつわる思い出話をして下さいます。こういうお話を聞くと、古い建物や風景、町並みは、人の記憶や歴史を乗せたタイムマシーンのような存在だなと感じます。

 

300年以上の時間を内包する福崎町の兵庫県指定文化財「大庄屋 三木家住宅」。

江戸時代、姫路藩の大庄屋の1つで、地域の政治と文化の中心でした。またここは、日本民俗学の父である柳田國男が、11歳のころに1年半ほど過ごした建物として知られ、柳田は当時、三木家にある大量の良書を読みふけったといいます。柳田は著書「故郷七十年」のなかで、「私の雑学風の基礎はこの1年ばかりの間に形造られた」と振り返っています。

 

この三木家住宅がレストランとブックカフェなどを備えた複合型ホテル「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」として改修され、2020年11月1日に開業しました。

国及び都道府県指定の文化財が宿泊施設に活用されるのは、日本で初めてのことになります。

今回は、この三木家の活用にまつわるお話をしたいと思います。

 

私は、もともとは14年間、神戸新聞で記者をしていたのですが、縁あって2018年3月から、この「三木家活用プロジェクト」に携わることになりました。

きっかけは、神戸新聞社と丹波篠山市を拠点に古民家活用によるまちづくりを展開している一般社団法人ノオトが連携し地域活性化の取り組みを始めたことです。その第一弾のプロジェクトが福崎町役場と公民連携による三木家の再生と活用でした。

その当時、丹波篠山市の担当記者であった私は、ノオトの活動に関心をもち取材していました。その繋がりから、私がこのプロジェクトに参画することになったのです。

 

 

さまざまな意見に向き合う―

 

「ワシは何の変化も望んでへん。このままがえんや」。

三木家の活用に向けて奔走していた最中、地域の高齢の男性が事務所を訪れ、こう言われたことがありました。

地域の歴史のシンボルを使わせていただくので、期待と不安が入り混じるのは当然とは思いつつ、面と向かって言われるとやはり少し戸惑いました。

一方で、わざわざそれを言いに来てくれたということは、私の考えを聞きたいのかなとも思いました。楽観的過ぎるかもしれないですが、怒った口調というわけではなかったこともあり、そう思ったのでした。

まだ形としてできていないものを説明して、伝えるというのは難しいことの一つでした。

私は、三木家が空き家の状態だと建物が傷み、維持修理費が行財政の重い負担になると説明しながら、ふと思いました。

「この男性は、『街が自分の知っている姿から変わってしまうかもしれない不安』を抱いていているのかもしれない」

それは私にも同様の経験のあることだったからです。

 

この「自分が知っている街が変わってしまうかもしれない不安」を私が感じたのは、姫路城跡内にある姫路市立動物園の移転の方針を聞いたときでした。姫路生まれ姫路育ちの私にとって、動物園は、生まれた時からそこに既にあり、幼児期によく行った場所でした。移転を聞いたときは「自分の知っている街じゃなくなる」と反射的に思いました。

ただ、その理由が動物の飼育環境の問題だと聞いて少し納得。さらに次の一言で大きく気持ちが変わったのです。

「あの動物園は、幼児が姫路城に来る機会になっている。移転後も小さな子どもが来るような場所になればいいんじゃないかな」。

こう言われて初めて、私は次の世代の子ども達が姫路城に来る機会がなくなることを、無意識に寂しく思っていたことに気付きました。

その場所に思いを寄せる人たちが、その場所に求める「本質的なもの」は何なのか、それを考えることが大事なのだなと気付いた出来事でした。

 

福崎での出来事に戻ります。私は男性に話しました。
「大庄屋三木家住宅は、もともと三木家の人の生活の場、仕事する場所でした。その大庄屋の建物の価値を現代の人に伝えるには、どうするのがいいか―。見学施設や展示場も方法の一つだけれど、ここで寝起きし、ご飯を食べて当時の生活を体験することが、一番その価値を伝えられるんじゃないか」

「上手に言うなあ」
と言いながら、男性は笑顔を見せてくれました。
もちろん100%納得されたわけではなかったとは思いますが、その後も度々意見交換をさせてもらいながら、見守っていただけました。

 

―「顔のしわ」は人生の深み。建物も同じ

 

古民家の魅力は、皺の刻まれたおじいちゃんやおばあちゃんの顔に感じる、人生の深みに似ていると感じます。血管が浮き出た手、ガサガサした肌、窪んだ目…。人と対面した時、無意識に「その人の歴史が刻まれた部位」からその人の年齢や歩んできた人生を想像することってないでしょうか。

 

私は建物も同じだと感じています。建物に足を踏み入れた時、「懐かしい」「歴史を感じる」と感じることってありますよね。

それは太い梁や土壁といった古民家のアイコン的な部材だけでなく、黒光りした天井、すすけた土壁、経年の退化で年輪が浮き出た木材などから建物が刻んできた時間を無意識に感じ取っているせいだと思います。

壁紙クロスや木材シート貼りのパネルなどの新建材は、時間が経過してもなかなか味わいにはならず、ただ劣化することが多いです。でも木や土など伝統工法で作られた建物は、経年変化が味わいに替わる。時間を価値に変えることができる素材であることが良さの1つだと思います。

 

私たちは三木家の改修をする時、この時間の堆積、つまり歴史を感じさせてくれる部材を最大限に生かすことを大事にしました。使えるものはできるだけ使う。むやみに新しくしない(もちろん、耐震工事や傾きの補修など安全に関わる部分は、直すのは言うまでもありません)。

三木家に来られた時、「昔のままやな」「なんだか懐かしい」、そう思ってもらえると嬉しいです。

 

―地域に愛させる文化財を目指して―

 

ホテルとして開業するまで、目の前にまだ形として出来上がっていないものを説明するのは、とても難しく歯がゆいことが多かったです。どんなものができるのか、皆さん期待と不安があったと思います。

ようやくオープンを迎え、地域にその形が見えるところに来ました。ホテルに改修した部分は、これまで立ち入れない空き家だったのですが、活用することで暮らしの体験ができる全国でも珍しい場となりました。

三木家をこうして活用することで、後世に受け継いでいく。そして地域の方々に地元の歴史に興味を持ってもらい、誇りと親しみを持ってもらえるような場づくりを目指していきたいと思っています。

 

(三木家活用プロジェクトリーダー 井垣和子)

 

酒蔵はレストラン「ファームズキッチン三木家」に。 江戸期に建てられたことが分かる墨書きなどが残る。

天井や柱、梁はそのまま。土壁は部分修理のみでほぼそのまま生かしている。

 

この建物で本を読みふけった柳田國男の少年期 を追体験できるよう、全室に本棚を設えている。(写真は離れ)

 

三木家住宅のなかで最も古い内蔵(1697年築)。

谷崎潤一郎が表現した日本の美の感覚「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」をテーマに、照明を配置した

 

お風呂は兵庫県多可町産のヒノキを使っている。 各部屋の再生部分も多可町産のヒノキを使用。

 

 

ブログ「三木家ビフォーアフター(リンク)」もご覧ください。

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